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CD-ROM表紙

「定本飯野家文書・中世篇」CD−ROM版刊行にあたって
                   飯野文庫代表 飯野光世

 飯野家文書は、鎌倉幕府政所執事伊賀光宗を祖とする飯野八幡宮宮司飯野家に伝世する鎌倉期から明治初期にいたる文書で、平成6年に1683通が国の重要文化財に指定されました。東北地方屈指の中・近世文書群と言われております。

このうち中世文書は209通。国学者大国隆正の言を容れた飯野盛容によって、明治4年(1871)頃178通が9巻の巻子に装丁され、そのほかは未成巻のまま秘蔵されてきました。
その内容は、関東下知状など好島荘の相論に関する文書、南北朝期の足利尊氏感状・同直義感状など武将としての伊賀氏の動向に関する文書、飯野八幡宮縁起注進状案・飯野八幡宮鳥居造立配分状など八幡宮に関する文書に大別されます。これらは、鎌倉期の好島荘の状況を明らかにし、南北朝の動乱期における伊賀氏の活躍を伝えており、あわせて奥州管領の権限をもうかがわせるものです。また室町期から戦国期における岩城氏の大名化の過程を示す資料でもあります。江戸時代には、新井白石が元禄15年(1702)に著した「藩翰譜」に引用しています。

この「定本飯野家文書・中世篇」CD−ROM版は、飯野家の祖伊賀光宗が宝治元年(1247)に時の執権北條時頼から好島荘預所職を命ぜられてより750年目にあたる平成9年を契機として計画いたしました。指定後、存在が確認された文書を含めて合計216通を収めました。従来の活字のみに依存していた「史料集」にはその精確さに限界がありましたが、原本をカラー画像として表示することにより墨色や虫損などを判然とさせ、画像が持っている文字以外の情報の読み取りをも可能にしました。保存上の問題からながく非公開とせざるを得なかった当文書をこうした形で公開できたことは、中世史研究に益するところ実に大きく、さらに学問の深化を加速させるものであると信じています。多くの研究者が活用されることを願ってやみません。

 

定本『飯野家文書 中世篇』CD-ROM版刊行によせて  福島県歴史資料館学芸員 渡辺智裕

このたび『定本 飯野家文書 中世篇』CD-ROM版が飯野文庫より刊行されるという。近年のデジタル・アーカイブの流れに対応する充実した史料集であり、歴史を学ぶ一人として心より歓迎するとともに関係各位の識見とご努力に対して改めて敬意を表したい。

 周知のように「飯野家文書」は国の重要文化財として中・近世文書が一括指定され、福島県内はもとより質・量ともに東北地方有数の武家・寺社文書群としてつとに知られている。また、同文書を伝える飯野家は鎌倉幕府の有力吏僚である伊賀氏の後裔にあたり、南北朝期以降代々飯野八幡宮宮司職を務めて現代にいたっている。

 これまで同文書を用いた研究は数挙にいとまがないくらいであり、好島荘の在地構造、鎌倉幕府の裁判制度、御家人制の研究、南奥における南北朝動乱、寺社造営など多岐にわたって論じられてきた。このたびの史料集の最大の特徴は鮮明なカラー画像データを中核に据えて編集されている点であり、釈文はもとより参考文献目録・既刊の史料集との対照など目配りも行き届いており、定本の名に相応しい現在望みうる最高の史料集であると言っても過言ではない。従来の活字中心の史料集とは一線を画し、花押の比定や変遷、墨継ぎや墨色等の筆跡、料紙の紙質・形態・法量など古文書学的研究にも十分に堪えうるものとなっている。この史料集の公刊によって確実に新たな研究段階にはいることになるであろうし、これからの史料集の方向性を指し示す学会共有の財産ともいうべきテキストといえるであろう。さらに歴史研究者のみならず、地域における生涯学習のテキストとして一般の方の活用も大いに期待されるところである。

 本書は是非とも手元に置いておきたい史料集であり、自信を持ってお薦めしたい。

 

  解 題  紹介文3点をPDFにて表示 

 


 


  目 録

目録の標題より史料名を選び
クリックすると目的の史料へ移る

 

 

 

 

 

 

  史 料

PDF化された画像と活字を並べて表示・閲覧。
また、史料画面にて中央の境界線を移動(クリックしたままドラッグ)すると、
史料もしくは活字が大きく表示される。
画面下部のナビボタンにて前後史料への移動、目録へ戻る。

 

 

 

 

  参 考

飯野家文書を用いた論考一覧。
タイトルの他、筆者、発行年月日、出版社などをまとめている。

 

 

 

 

 



飯野家文書のデジタル化について 中世篇の事例   飯野文庫研究員 飯野敦子

このたびの飯野家文書中世篇CD-ROMでは、全史料を活字化・フルカラー画像で収録いたしました。また、目録の標準化もはかり、より史料を扱いやすく正確な情報をお伝えできるようなりましたことと思います。

デジタル化を進めるきっかけとなりましたのは、史料の状態が悪く破損の危険性が大きいため、後世まで残し継ぐことを考えますと、現史料を保管せざるを得なく、見ることも手に取ることもできなかったことにあります。また、過去に活字化されているものも多くありましたが誤読も多々見られ、活字だけでは例えば花押や紙の質などがどのようになっているかなどは示されておらず、情報量も限られており、自由に研究することは難しい状況でありました。さらに、高精細のデジタル画像を備えることによって、自由に研究利用しやすくできるとともに、新しい研究の可能性を開くこともできるのではないかという将来の展望もありました。

デジタル化における過程は、今から6、7年前、県指定重要文化財だった時分に、平電子印刷所より資材提供を受けまして、史料をブロニー版で、カラーのポジフィルムを用いて撮影を致しました。この頃より既にデジタル化の計画がございました。その後、地域学会・地方史研究会の方々のご協力を得て、近世文書の整理・目録作成をし、飯野家文書1683通は平成6年国指定重要文化財として一括指定されました。

その後、平電子印刷所のご協力を得て中世篇の史料をフィルムスキャナでデジタル化し、指定後に発見されました史料を昨年、追加分として撮影しデジタル化をしました。同時に活字化も進めてまいりました。

活字化にあたっては、コンピュータを使用しましたが、致命的な問題点がございました。中世文書には多くの外字や異体字が含まれ、文字を作ることも多くありましたが、これらが全て正常に表示できなかったのです。何故コンピュータで表す文字にこの様な問題が生じるか、原因はコンピュータが文字を表示させるシステムにあります。コンピュータを作動しているOSにはWindowsやMacintoshをはじめ、さまざまなものがあり、また文字を表示するソフトウェアも沢山ございます。文字はコンピュータ内に文字番号で登録されていて、表示・印刷する際は文字番号で検索して該当する番号の字形データに変換しています。コンピュータ内に登録されていない文字や、文字コードから外れる文字や異体字は、正確に表示・印刷することが出来ませんし、環境が合わなければ強制的に別の文字に置き換えられてしまい、文字化けを起こしてしまって判読不可能となります。この問題を避けるため、今回の活字ではフォントを埋め込めるAdobe社のAdobeAcrobatというソフト、俗にいうPDF形式で表示することにしました。

文字表記問題の他にもPDFにはいくつかの利点があり、今回は活字だけでなく史料の画像もPDF形式で表示する形をとりました。
OSの種類にも依存しませんし、元の文書と同じレイアウトやカラーで見ることもでき、例えば系図など非常に複雑なレイアウトでも正確に表示できました。
また、PDFの独自の圧縮方法により精細さを失うことなくデータの容量を減らすことができる点、倍率を変更して史料を拡大表示することも可能です。拡大表示機能は、解読するにあたっても非常に利便性にすぐれていましたし、紙の裏にある裏花押まで精細に見ることもできました。精細かつ柔軟な表示方法には、限られた用いかたにすることなく、原史料に接する以上の多くの情報を得ることが可能になり、より正確で利用者の目的に合わせた情報を提供できることに繋がるでしょう。

以上のような経緯を経ましてCD-ROMを作成いたしましたが、デジタル化には紙では出来得ない最も大きな利点があり、今回はそれを残しCD-ROMとして作成することを終えました。最も大きな利点とはインターネットなどのネットワークを通じて、遠方からの閲覧・検索
を可能にすることです。このたびの飯野家文書中世篇CD-ROM版は、飯野文庫の活動としてあくまで新たな始まりに過ぎません。保存・活用を図り文化と教育の発展に貢献することを目的とし、近世篇・飯野家文書を用いた論文集を作成することを目標とし、より事業発展に取り組んでゆく所存です。